算数障害の認知度の低さにびっくり
昨日、塾向けの算数のタブレット教材の説明を聞いてきました。
導入するかと言われると、しないですねー。
その説明の中でびっくりだった出来事の紹介です。
私が「算数障害のお子さんが使用した例はありますか?」と聞いた所、
タブレット教材会社の営業さんが「算数障害とは身体障害でしょうか?発達障害でしょうか?」
・・・え?算数障害だよ?
本気で、聞こえなかったのかな?と思いました。
算数障害とは・・・と簡単にその場で説明しましたが伝わったのかな?
算数障害って?
算数障害とは、学習障害の一つで「計算する」「推論する」の習得さに困難がある障害です💡
読みの困難さのある識字障害、書きの困難さのある書字障害と並んで、出てくることが多いです。
他の発達障害と同じで、グラデーションです。
算数障害の出かたも色々です。
どんな子がいるかというと・・・
小学1年生だと、「りんごがいくつあるか、かぞえてすうじでかきましょう」
みたいな問題があります。
こういう問題で「いち、に、さん・・・ご、なな」みたいに数をとばして数えてしまったり、
同じりんごを2回数えてしまう子、
小学3年生、計算に少し時間はかかるけど単元テスト(カラーテスト)は80点をとれている、でもよく見ると、指を使って計算している子、
今まで順調に学習できていたのに、3年生の円と球になって突然「わからない!」となってしまう子、
小学4年生。計算の手順がなかなか覚えられなくて、割り算の筆算を何回練習してもできない子、
文章題で何算を使えばいいのかわからない、文章題に出てくる数をでたらめに使う子、
計算ミス、教科書からノートへ数字をうつす写し間違いミス、
黒板からノートへ数字をうつす写し間違いミス、
と思い付くだけならべても、いろんな形の算数障害があります。
脳機能の問題なので、たくさん練習したら克服できるものではありません。
「なんでできないんだろう」
「こんなに練習してるのに」
「先生の説明がなんで分からないんだろう。私だけなのかな」
そんな思いを抱えているかもしれません。
なんでも障害って言ってる、だって?
「ただ勉強ができないだけでしょ。」
「私の子だからしょうがないわ」
とおっしゃる親御さんがいます。
でも、苦しんでいるのはお子さん本人なんです。
加えて、算数障害は脳機能の問題なので、
練習したら算数ができるようになるわけではありません。
お子さんが悪いわけではないんです。
個性というには、あまりにも本人の困り感が強いと思います。
ちなみに、算数障害の発生率は5~7%、ひとクラスに2人はいる計算です。
また、 読字障害、ADHDとの合併が知られています。
読字障害は算数障害のある子どものうち、およそ4~6割を占めるとされます。
算数障害の子、どうしたらいいの?
①特別な教え方をしてあげる
例えば、小学3年生で指を使って計算している子。
どこで困っているかでアプローチが変わります。
・数自体の認識
私たちは「6」という数字を見ると●●●●●と6粒の数を自然と思い浮かべることができます。
また、6+9であれば、6を「●●●●●」(5のかたまり)と「●」(1)と分けて考えることができます。
さらに「9はあと1を足すと10になるな」と考えます。
このタイプのお子さんは、学年が上がってあらためて数の性質を学びなおしたら
「わかった!」となる子がいます。
3年生だけどこんなことやっていいのかな、と躊躇せず、
【6を「●●●●●」(5のかたまり)と「●」(1)と分ける】とかを練習します。
それでも、うーんな場合
語呂合わせや指を使って覚えていきます。
10になる組み合わせならこんな感じで
こんな計算なら
二人一組になって、両手で5と1で6を作る→二人で5のほう(パーのほう)は「合体!10!」として
残りの指を数えます。
前の学年のことを振り返るのは、情けない気持ちになる子もいます。
あの手この手で楽しく!明るく!やっていきましょう。
・短期記憶を保持
6+9をステップにわけると、
【6を「●●●●●」(5のかたまり)と「●」(1)と分けて】
【9に1をあわせて→10にする、10を覚えておく】
【6からとった「●●●●●」(5のかたまり)と合わせる】
これって、「記憶を保持しながら作業する」ってことですよね。
これが苦手なお子さんは、書けばいいです。
「さくらんぼ計算、そろそろやめてみよっか」と声をかけられても、無視!
書かないと忘れちゃう!忘れちゃうなら書けばいい!
②道具を取り入れてみる
・手順シートを置いてみる
例えば、4年生の割り算の筆算の練習をしても、なかなか習得しない子。
この子も「短期記憶を保持」が苦手かもしれません。
次なにする?の手順を覚えるのが大変なら
手順シートを横に置いておけばいいんです!
これがあれば解けるなら、ずっとこのシートを横に置きながら、
あるいはこの形式で出題してもらえれば解けます。
練習不足でもずるでもありません。合理的配慮です。
・教科書に書き込んじゃえ
数字の写し間違えのミス、悔しいですね。
算数の授業で、今、習得したいのは何ですか?
数字を正しく見て、短期記憶して、手元のノートにうつす、
そんなスキルじゃないですよね。
教科書に書き込むことを許してもらいましょう。
黒板→ノートに写す、で間違えるなら
板書の内容をプリントにして、授業冒頭で配布してもらってもいいですよね。
横浜市内の小学校は全生徒に学校での学習用にiPadが配布されています。
板書の内容をうつさずに撮影する、デジタルドリルで宿題を出してもらう、
デジタル教科書で拡大しながら書き込める、いろんな合理的配慮の例はあります。
・電卓使おうよ!
さっきの「何を習得したいか」と同じです。
文章題なら
文章読む
⇩
場面を想像する(言語から視覚イメージへの変換)
⇩
図にする
⇩
式を立てる
⇩
式を解く、答えを書く
の流れです。式を立てるところまでが習得したいなら、
式を解くのは電卓を使えばいいんです。
実際に、合理的配慮としてiPadの電卓を使っている例があります。
配慮はどうやって申し出たらいいの・・・?
どんな場面で、どれくらい困っているのか、
それは何が原因なのかを知る必要があります。
配慮を申し出るには、客観的な根拠が必要です。
当教室では算数障害のスクリーニング検査をご用意しています。
また、学校への配慮事項申請シートの作成のお手伝いも行っています。
幼稚園・保育園のお子さんたちって
クイズやお金、パズルやブロックが大好きで、わくわくしながら取り組みます。
そのわくわくって、数学につながっているんです。
小学校の算数なんていう反復練習、素早く正確にやる作業なんて
くそくらえです!!!!
数学の本質は考える楽しさだと思っています。
困っている子たちに出会えて、少しでも「楽しい」にたどり着けるお手伝いができたらいいなと思っています。
【参考文献】
・通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法 (熊谷恵子、山本ゆう 著)
・特別支援教育で役立つたし算・ひき算の計算ドリル(熊谷恵子、山本ゆう 著)